遺伝子組換えカイコによるタンパク質生産技術
カイコは、数千年の養蚕の歴史の中で、絹糸の生産性を高めるため繭を大きくする方向で品種改良が繰り返された生き物です。その結果、カイコには、多量の絹タンパク質の塊を短時間で合成する能力が付与されました。
当社は、カイコの持つ優れたタンパク質合成能力に着目し、10年以上の歳月をかけ、繭に多量の組換えタンパク質を生産する遺伝子組換えカイコ作製技術を開発してきました。古典的な養蚕技術に先端的な遺伝子組換え技術を融合することにより革新的なタンパク質生産技術を確立し、新しい蚕産業の復興(シルクルネッサンス)を目指します。
遺伝子組換えカイコ生産系の特徴
1. 多量のタンパク質を安価に生産
生産するタンパク質の遺伝子を染色体に組み込んだ遺伝子組換えカイコ(トランスジェニックカイコ)を作製し、絹タンパク質の合成組織である絹糸腺でタンパク質を発現させます。カイコが有する爆発的な絹タンパク質合成能力を利用するため、多量の目的タンパク質を安価に生産することが可能です。カイコに組み込んだ遺伝子は安定的に世代間に引き継がれるため、カイコを交配して増やすだけで容易にスケールアップすることができます。
2. 精製が容易
絹糸の横断切片をAzure Bで染色
絹糸は、糸の本体であるフィブロイン繊維と、その周りを取り囲むように存在する糊状のセリシンより構成されています(右図)。当社が開発した技術では、目的のタンパク質をセリシンを合成する組織である中部絹糸腺で発現させ、絹糸のセリシン部分に分泌させます。
糊状のセリシン中に存在する目的タンパク質は、繭を中性緩衝液等に浸漬するだけで簡単に抽出することができます。一方、セリシンやフィブロインは緩衝液に溶け出すことはないため、目的タンパク質を高純度で回収でき、後工程でのタンパク質精製を容易にします。
3. 翻訳後修飾や多量体形成が可能
カイコは、大腸菌や酵母等の微生物とは異なり、高度に進化した真核動物であるため、糖鎖修飾やジスルフィド結合を含むタンパク質翻訳後修飾能を有します。また、目的タンパク質の発現組織である絹糸腺は、高分子の絹タンパク質を合成することに特化した組織であるため、分子量が大きく複数のサブユニットから形成される多量体タンパク質でも合成可能です。
遺伝子組換えカイコを用いた各種タンパク質生産事業
1. 研究用試薬・診断薬用抗体の製造
遺伝子組換えカイコにより、安定した品質のモノクローナル抗体を安価に生産することが可能です。生産した抗体を、当社のELISAキットの原料として活用している他、診断薬メーカー等への原料供給も行っております。カイコは、動物愛護の対象外であるため、マウス腹水生産系の代替として最適です。
2. 化粧品用ヒトコラーゲン
遺伝子組換えカイコで生産したヒトⅠ型コラーゲンα1鎖をネオシルクⓇ-ヒトコラーゲンⅠと命名し、化粧品の保湿剤として製品化しました。ネオシルク化粧品の製品に配合されている他、原料としての販売も行っております。ヒト型であるため、アレルギー反応を引き起こす危険性が低い、安心・安全なコラーゲンです。
3. 医薬品タンパク質の開発
動物医薬品メーカーと共同で、カイコ生産タンパク質を動物用医薬品原料として開発しております。さらに、フィブリノゲン、ワクチン、抗体医薬など、ヒト医薬品候補となるタンパク質生産技術の開発を進めております。GMP製造設備を建設し、医薬品製造の実現を目指します。
4. その他のタンパク質の生産
遺伝子組換えカイコの生産系は、特に、複数のサブユニットから形成される高分子のタンパク質生産に威力を発揮します。他の生産系では製造が難しいタンパク質をターゲットとして開発を進めております。継続的な大量生産が必要なタンパク質については、お客様からの受託業務としてタンパク質製造を行うことも可能です。
参考文献
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Note: Retrieve by PMID number in displayed by abstract: http://www.ncbi.nlm.nih.gov
本技術の開発には、知的クラスター創成事業・広島バイオクラスターならびに
独立行政法人農業生物資源研究所の研究成果が活用されております。